目は心の窓

ある患者さんが診察室に入ってきて、椅子に腰かけて…いつも通りの流れだけれど、ふと顔を見ると何となく表情にかげりがあり、目の輝きがない。

「あれっ?」と異変を感じて「なにかあった?」と聞くと、「実は…」とうつ向きながら患者さんがぽつぽつと話し始めます。

いつも1つのベッドで寝ている仲良しご夫婦なのですが、ある朝起きたら、隣に寝ているご主人が冷たくなっていたのだそうです。

「それからが大変で…」と、患者さんはため息まじりに続けます。「救急車を呼んだら警察も来て・・・」。実は、病院以外で亡くなると「異常死」扱いになって検視官がおうちに来るのです。事件性はありませんね、となって警察も救急車も帰って行ったものの、一通り終わったら今度は葬儀の段取りもしなければならない。

突然訪れた、目の回るような忙しさ。お通夜、本葬、納骨・・・ようやく忙しさが落ち着いてきた今も、ふとあの朝の光景が目に浮かぶのだと言います。

「主人が亡くなっていると気づいた時に、びっくりしてまじまじと見た、主人の顔が目に焼き付いて離れなくて・・・」。

こういう場合、かける言葉が見つかりません。

患者さんの体を診るのが私の仕事ですが、とはいえ、身体“だけ”を診ていれば良いわけでもないのです。

なぜなら心と体は分かちがたく、1つにつながっているものだからです。

この患者さんの場合も、トラウマ級の大変な事態に遭遇し、愛すべき伴侶を亡くされた直後で、心はまったく健やかではない。それが目や表情に現れていたのです。

話を聞き終えた私は「そうだったの…大変だったね」と声をかけるに留めました。

患者さんの気持ちを考えると、それ以上の言葉はかえって気持ちにそぐわないものになってしまうかも・・・と思えたのです。

ただ「落ち着いたら『グリーフケア』といって、親しい人を亡くした人たちのための場所があるから、行ってみたら良いかもね」と言い添えました。 心の傷は、人によって治る速度が違います。グリーフケアによって、そのかたの速度でゆっくりと傷を癒してほしいと思っています。

ともこ

心とからだはつながっているのです


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