ああ、待っとってくれたんじゃねぇ~

かつて、私が大学病院の勤務医だった頃のことです。

長いこと糖尿病で通院していたAさんがいろいろな合併症を起こし、ある日入院することになりました。

残念ながら、病状からして近いうちにお迎えが来るだろうという状態でした。

私は最期までAさんを診たかったのですが、ちょうど翌日から出張があり、どうしても遠くへ出かけなければなりませんでした。

広島に戻ってくるのは翌々日。きっと最期には立ち会えないだろうと、他の先生がたに後を託して新幹線に乗りました。

それはハードスケジュールの出張だったので、帰りの新幹線にもやっとのことで滑り込むような忙しさでした。

新幹線の席につき、やれやれとホッとした瞬間、ふとAさんのことが頭に浮かびました。

「Aさん、まだ息があるかな?」とイメージしてみたら、なんとなくまだ大丈夫な気がしたのです。これは間に合うかもしれない・・・

広島駅に着くなり大急ぎで病院に戻ったところ、Aさんはもう意識はないですが、心拍数は安定していました。

私はホッとして、小さく「Aさん、帰ってきましたよ」と声をかけて病室を出ました。

その日の深夜、Aさんは静かに息を引き取られました。

「ああ、私にお別れの挨拶をさせてくれるために、待っとってくれたんじゃねぇ」と心の中で感謝しながら、Aさんを見送ることができました。

医学的には少し不思議なことですが、臨終の際にはこういったことが良く起こります。悲しい場面ではありますが、人間の力ってすごいなと感じます。

ともこ

思い出すと今でもウルっと来てしまいますね


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